私の彼氏はクラスで一番、
「ごめん私、全然知らなくて……何も用意できてない」
「いや、そういうつもりで言ったわけじゃないし……もう十分、貰ってるから」
貰ってる?
首を傾げる私に、阿久津くんは優しく微笑むだけで、それ以上何も言わなかった。
私はまだ混乱していたのだけど、阿久津くんがこの話はこれでおしまい、というように口を噤んでしまったから、もう黙るしかなくて。
衝撃の事実に考え込んでいるうちに、車内のアナウンスが聞き慣れた駅名を流す。阿久津くんの最寄り駅だ。
ああ、今日はここでバイバイかあ。誕生日の件については、また考えてから連絡しよう。ちゃんとお祝いしたいもん。
そう心に決めながら、阿久津くんに改めて今日のお礼を言おうとした。でも。
「……?」
電車がホームに着いても、扉が開いても、阿久津くんは降りる様子がない。
戸惑いながらドアと阿久津くんを交互に見る私には目もくれず、そうしている内に、プシューと音を立てて扉が閉まってしまった。
「阿久津くん、駅……」
「山本のこと送りたい。ダメ?」
やっと目が合ったかと思うと、そんなことを訊かれる。戸惑いながら首を振った。
「ううん。でも、無理してない?」
「してないよ。俺が離れ難かっただけ」
私も。
咄嗟に込み上げてきて、けれど素直には言えなかった。「……うん」なんてよく分からない返事をして、靴の先に目を落とす。