私の彼氏はクラスで一番、


阿久津くんは、いつも真っ直ぐに言葉をくれるから。

たまには自分も、少しくらいは頑張ろう。そう思って口にしてみたけど、やっぱり顔から火が出そうなほど恥ずかしい。

気付くと二人とも立ち止まっていて、阿久津くんが何も言わないから段々と不安になってくる。


「な、なーんて……」


どうにか軽い空気にしたくて、へら、と笑いながら様子を窺うと、暗闇の中でもわかるくらいに彼の顔が真っ赤に染っていた。


「え」

「……それ、すげえ殺し文句」


はあ、とため息をついた阿久津くんが、固まる私をぎゅっと強く抱きしめる。


「山本のその、突然急所を刺してくる技、ほんとズルいよ」


抱擁は一瞬で、まだ顔を赤らめたままの阿久津くんは、戸惑う私を置いて歩き出した。

やがて少し進んだ先で、くるりとこちらを振り向く。


「早く来ないと、置いてくよ」


置いてくよ、って……。


「阿久津くん、道分からないでしょ?」


ふふ、と笑って小走りで追いかける。

二人並んで歩き出して、でも、もう手は繋がれない。

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