私の彼氏はクラスで一番、

無意識のうちに不思議がっていたみたいで、阿久津くんが微笑んだ。


「山本の家、もうそろそろ近い？」

「え？　あ、うん……」

「なら、繋がない方がいいでしょ」


その言葉を、どういう意図で言われたのかは分からなかった。

知り合いに見られない方がいいよね？　ってことなのか。

そしてそこに、まだ俺たちお試しの関係だもんね、という言葉まで含まれていたのか。

だけど私は深く触れることは出来ず、ただ、喉の奥に小骨が引っかかったような違和感を感じたまま、曖昧に頷いて彼の隣を歩いた。

やがて家の前まで着いて、今日はありがとう。また連絡する。おやすみ。と優しい声に見送られる。

私が家の中に入るまで見届けようとする彼と、彼が駅までの道を戻る背中を見送ろうとする私の戦いは私が勝ち、時々こちらを振り向きながら小さくなっていく姿にぼんやりと思う。

私たちって、まだお試しの関係なのかな。

当然、その問の答えを持つのは私たち二人自身で、だけど私には分からなかった。

どうすれば、何をしたら、普通の恋人になれるのか。


「分かんないなあ……」


途方に暮れた呟きは誰にも拾われることなく、暑く蒸した夜に消えた。