私の彼氏はクラスで一番、


「席、離れちゃったね」


ぽつり。言葉を落とすと、セピア色と目が合った。


「全然気にしてなかったくせに」

「そんなことは! 席遠くなっちゃったなあ、とは思ってたよ!」

「ふうん。ほんとは俺の隣が良かった?」

「……モチロン!」


……まずい。変な間を開けてしまった。

阿久津くんの瞳が、すぅ、と細まる。


「絶対思ってない」

「いや、違うの!」


誤解を……! 誤解を招いている……!


「嫌とかじゃなくて、その、あんまり近いと、どうしたらいいか分からなくなっちゃうと思うから」

「どうしたらいいか分からない?」

「うん……。それに、授業に集中できなくなると思う」


ボソボソと呟くうちに、不機嫌そうだった阿久津くんの瞳がきょとりと瞬き、やがて喜色を浮かべた。


「へえ、集中できなくなっちゃうんだ」

「う、うん」

「何で?」

「何で!?」


きゅ、と左手を下から掬うように握られて、指が絡む。

俯いて、必死に目を逸らす私をじいっと見つめる強い視線に、頬が焼けるようだった。


(な、なんか形勢逆転されてる)


さっきまでは阿久津くんのほうが拗ねて甘えてきてて、可愛いなあなんて思ってたのに。

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