私の彼氏はクラスで一番、


「おしえて」


普段、教室で過ごしている阿久津くんからは想像もつかないような、とろけた声。

ぐう、と言葉に詰まる私を慈しむように見つめながら、それでも逃がす気は無いみたいだった。

やがて、観念してぽつりと呟く。


「ど、どきどきしちゃうから」


今も。
ぴったりとくっつく左半身が、熱くて仕方ない。


「ふうん」


聴覚も、視覚も、触覚も。

ぜんぶ彼に支配されて、だからせめて、ひとつだけでも逃れられればと目を固く瞑る。


「ドキドキするのは、どうして?」


だけど追及の矢は止まらない。
なんで、どうして、って、ひとつひとつを丁寧に暴くみたいに。

しまいには、私が答えられないでいると、丸い爪先で擽るように私の手のひらをなぞり始めた。

それがこそばゆくて、恥ずかしくて。

折角視覚をシャットアウトしたのに、その分触れられる感覚を敏感に感じ取ってしまって、目を閉じたのは逆効果だったかも──なんて、もう遅い。


「……ッ、か、かっこいいから!」


黙れば黙るほど窮地に追いやられてしまい、最終的には悲鳴混じりで白状した。


< 97 / 129 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop