ミーリア国戦記〜癒しの姫は、仲間たちと王国を守り抜く〜

「増長するなっ、異人!!」

 ギラン将軍が顔を真っ赤にして叫んだ。普通の市民なら、この声を聞いただけで気を失ってしまいそうな迫力だ。

「よかろう。そんなに死にたければ望み通りにしてくれるっ……!」

 ギラン将軍が歯ぎしりと共に、巨大な戦斧を振りかざす。
 だがそんな将軍に、ゲンジはこう言った。

「ご安心めされよ、貴公に傷は負わさぬ」

 唖然とする私たちを横目に、ゲンジはギラン将軍に軽く一礼して数歩下がり、体を傾けて僅かに両足を開いた。

 ゲンジの態度に兵たちも沸騰しかかったけど、すぐにその声は小さくなった。
 ゲンジの構えが、見たこともないものだったからだ。

 ゲンジは静かに腰を落とし、腰に差した細身の剣の柄に手を掛けたが、抜かない。それどころか薄く目を閉じて、瞑想するような雰囲気だ。
 戦斧を構えたギラン将軍が、たまりかねて叫んだ。

「剣を抜けっ、異人!」

「……」

「痴れ者っ、勝負を投げたか!!」

 二人の様子を見守っていた兵から、「あの異人、真っ二つにされるぞ……」と、怯えるような呟きが漏れる。

 私は見ていられずに、二人の間に割って入ろうとしたけれど、肩を強く掴まれて引き戻された。

「行ってはだめ、リアナ」

「レイア……」

「これ以上あの異人に肩入れすると、兵たちにあなたが、私情で依怙贔屓(えこひいき)する人間だと思われてしまう。軍の士気に関わるわ」

「……」

「あの異人が自分で言い出したこと。何か考えがあるのでしょう」

 でもゲンジは、熊のような巨躯のギラン将軍の戦斧を、どう制するつもりなのだろう。それも、相手に傷を負わさずに。

 ゲンジは瞑想するように、柄に手を掛けたままだ。

「剣を抜けっ、抜かぬかっ!!」

 ギラン将軍が、地を割るような怒声を浴びせた。
 すると薄く目を見開いたゲンジから、穏やかな水面のような言葉が帰ってきた。

「これが我が構えである。いつでも来られよ、将軍」

「お、おのれ……っ!!」

 次の瞬間、ギラン将軍が雄叫びを上げてゲンジに突進した。
 猛獣の突進そのものだった。

 私はたまらず、目を閉じた。
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