ミーリア国戦記〜癒しの姫は、仲間たちと王国を守り抜く〜
策が見事に決まったというのに、ベルナルドは厳しい表情で戦況を見守っていた。
「どうかしたのですか?」
「……敵が硬すぎます。レイア殿もギラン将軍も、あまり敵に食い込めていない」
言われて見れば、レイアの旗印もギラン将軍の旗印も、敵兵に阻まれて前に進めていない。
すると腰袋からヴァールが顔を出して、「にゃあ! にゃあ!」と盛んに鳴き始めた。まるで「気を付けて!」と、私たちに注意するように。
物見の兵が叫んだのは、その時だった。
「て、敵軍に異形のものが混じっております!!」
「そんな……っ!!」
目を凝らすと、甲冑姿の敵兵の中に異形のもの、棍棒を振り回す猪鬼や、数匹が飛び跳ねながら襲ってくる小鬼の姿が見えた。
でも、あり得ない。
人間を見たら無差別に襲いかかってくるような鬼たちが、武装した兵士たちと一緒に戦っているなんて──!
息を呑む私たちの横で、さらに別の兵が叫んだ。
「左上空、敵影っ!!」
左の空に小さな影が一斉に現れ、急速にこちらへ向かって来る。
「有翼鬼か……!」
ベルナルドは呟くと、手にした杖を構えて、私に声をかけた。
「ガーゴイルどもは私が対処します。姫君様は弓兵に円陣を組ませて、私の討ち漏らした敵に備えてください」
「地の異形どもは、拙者が引き受けよう」
そう言ってゲンジが、剣の柄に手を掛けて一歩前に出た。
「姫君に我が剣術の冴え、御覧に入れる」
ゲンジは大きく息を吸い、そして吐き出すと、放たれた矢のように敵に向かって駆け出した。