ミーリア国戦記〜癒しの姫は、仲間たちと王国を守り抜く〜

 弓兵たちが慌ただしく隊形を組み直している間にも、ガーゴイルの群れはどんどん近づいてくる。
 ベルナルドはこの有翼鬼どもを、どう防ぐつもりなのだろう。
 
 地上の戦いは、序盤の混乱から立ち直りかけていたロズモンドの戦列に、新たな混乱が広がり始めていた。
 
 ゲンジだ。
 この東方の剣士が剣を振るうたび、オークの太った首が枯れ枝のように斬り飛ばされ、ゴブリンは5、6匹まとめて真っ二つになってしまう。
 さすがの鬼たちも怯んで、ロズモンドの兵たちの陰に隠れようと、狭い戦場をぎいぎい叫びながら右往左往した。

 それがまた、ロズモンド軍を混乱させていく。

 オークの腕力やゴブリンのすばしこさに手を焼いていたレイアやギラン将軍も、隊列を組み直して再びロズモンド軍を前後から圧迫し始めた。

 そして──、

 吹き付ける風を感じて視線をめぐらすと、杖を構えたベルナルドの周囲に激しい風が渦巻いていた。
 ベルナルドが、強力な『風の魔法』を完成させようとしていた。

「来たれ、風の獣! 我が(かいな)となりて敵を呑み込め!! 『風斬渦』!!」

 呪文の詠唱を終えたベルナルドが杖をかざすと、杖頭に輝く七色の宝珠から凄まじい竜巻が沸き起こり、慌てて逃げ散ろうとするガーゴイルどもを次々に呑み込んでいった。
 そして魔法の発動を終えた後には、羽根をもがれたおびただしい数のガーゴイルが、地上に叩きつけられ、ぴくりとも動かなくなっていた。

 流れはまたミーリア側に移った。
 ところが──、

「右上空、ガーゴイルの新手です!!」

 悲鳴のような兵士の叫びの先には、先程の倍はありそうなガーゴイルの大群が、鋭い鉤爪を伸ばしてこちらに向かって来ていた。
< 16 / 61 >

この作品をシェア

pagetop