ミーリア国戦記〜癒しの姫は、仲間たちと王国を守り抜く〜

“光の巫女よ、愛しい私の娘よ” 

 唐突に、頭の中に声が響いた。
 目の前には地上の激しい戦いと、空には迫りくるガーゴイルの大群が見えているのに、戦場の喚声は遮断されて、無音の中で誰かが(ささや)きかけてくるようだった。

“光の巫女よ、私の声を聞き、私と心を合わせるのです”

──誰っ、誰ですか?!

“恐れず、迷わず、私の名を唱えなさい。その力を解き放ち、(みどり)の風となして闇を払いなさい”

──まさか、光の女神(ハリーファ)さまっ?!

 私が幼い頃、眠りに就く前の私に、お母さまはいつも語って聞かせくれた。
 ミーリア王家は光の神々の末裔で、王国に危難が訪れる時は、必ず女神ハリーファさまが私たちをお救けに来てくださいますと。
 そしてお母さまが語ってくださる光の神々の物語が、幼い私の寝物語だった。
 特に、慈愛に満ちた光の女神ハリーファさまと、ハリーファさまの御使いとして魔物を滅する、神獣シュテルヴァールのお話は、私の大のお気に入りだった。

 そんな日々を重ねて育った私は、気がつくと誰に教わったわけでもないのに、『癒しの魔法』を使うことができた。
 戸惑う私に、この力はミーリア王家の娘に稀に現れて、光の女神さまから授かったものなのですよと、お母さまは微笑んで教えてくださった。

 私は、ハリーファさまの神殿に足繁く通って、美しい女神さまの像にぬかずくのが、大切な日課になっていた。

 そして、今──。

「姫君様、どこへ行かれるっ?!」

 ベルナルドのうわずった声を聞きながら、私は馬を進め、丘の中心に立った。

 私は目を閉じ、空を仰いだ。
 瞼の裏が眩しい。身体の中に溢れるほどの光を感じる。きらきらと輝る光の粒が身体中を駆け巡って、身体から溢れ出しそうだった。

 そして口を開き、言祝(ことほぎ)を紡いだ。

「光、満ちよ。大いなる女神の御業を現し、人々に癒やしを、闇に光を。──吹けっ、『癒しの風』っ!!」

 たちまち、辺りの空気が翡翠色に輝き、きらきらと煌めきながら戦場全体を覆いつくしていった。
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