ミーリア国戦記〜癒しの姫は、仲間たちと王国を守り抜く〜

 翡翠色に輝く風は、冬の荒野を春の風が優しく撫で(ひら)いていくように、戦場全体を染め上げていった。

 そして──、

「上空のガーゴイル、全滅! 飛んでいるものは一匹もいません!!」

 空を見ていた兵が叫ぶ。
 地上の戦いを見ていた兵も、続けて叫んだ。

「オークもゴブリンも全滅です! 一匹残らず砕け散りました!!」

 鬼どもは全て、乾き切った泥人形のように、粉々に砕けて風に吹かれて消えた。

 それだけでは無かった。
 レイアの隊からもギラン将軍の隊からも、沸き立つような喚声が地を響かせた。『癒しの風』が、兵たちの疲れや渇きや、手傷まで治したのだ。

 回復したミーリア軍は一気に勢いづき、反対に奥の手の鬼どもを全て失ったロズモンド軍は、完全に浮足立った。

 レイアとギラン将軍の隊がロズモンドの軍勢を真っ二つに切り裂いて、ついに敵は戦う意思を失った。

 敵の生き残りは、散り散りに街道沿いの森に逃げ込むか、その場でミーリアの兵士に捕らえられた。
 砦の前に布陣したまま戦いに参加しなかった敵の本隊は、私たちへの奇襲が失敗したことを知り、砦の攻略を諦めてロズモンド領へと帰っていった。

 私たちは5千の兵で、1万を越えるロズモンドの侵攻軍を破った。
 敵方の鬼どもを一匹残らず消滅させるという、おまけ付きで。

 諸王国の連合軍ですら止められなかったロズモンドの侵略を、私たちは払い除けた。

 決して勇武とはいえないミーリア王国の名は、大陸全土に轟いた。

『光の巫女』の名と共に──。
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