ミーリア国戦記〜癒しの姫は、仲間たちと王国を守り抜く〜
グロムス砦攻防戦
姫と騎士と黒猫と
評定の間を出ると、後ろから鎧靴の音が甲高く近付いてくる。振り向かなくても誰かは分かっていた。
「姫様、お考え直しください!」
ピシャリと叱りつけるような物言い。私の身を案じてのことだと、分かっているけれど。
「レイア」
私は廊下の篝火の照り返しを受けながら、幼なじみの女騎士にこう言った。
「私も兵たちと共に在りたいのです。王国のために身を挺して戦ってくれる、数多の兵たちと」
「お心遣い、臣民の一人として真に勿体なく存じます。ですが──」
レイアは言葉を強めた。
「それと姫様御自身が戦場に出られるのは話が別です。どうか王宮にとどまり、皆を安心させてください。ロズモンドの奴輩は、このレイアが必ず打ち払って御覧にいれます」
レイアは深紅の鎧の胸に手を当てて、碧く澄んだ目で私を見詰める。
そんな、鋼のような幼なじみに、私は柔らかく言葉をかけた。
「ありがとう、レイア。でも私も王族の一人として、この国難に何もせずにはいられないのです」
「ですから何度も申し上げておりますように、父君様と王宮にて──」
「私は足手まとい。そう言いたいのですか? レイア」
「……」
「堅苦しい言い方は止めましょう。私とあなたの仲じゃない」
レイアは小さく首を振ると、いつもの話し方に戻ってくれた。
「ねえリアナ。お願いだから、わがまま言うのはやめて。あなたの身に何かあったら、私たちはどうすればいいの?」
レイアは白い顔を私に近付けて、言う。レイアの金色の巻毛が、篝火の灯を受けて、薄闇の中できらきら煌めいた。
レイアの視線を受けながら、私は言った。
「私の身と同じように、貴女の身も大切なのよ、レイア。なのに私だけ、安全な場所になどいられない」
「リアナ……」
「ねえレイア。私も『癒やしの魔法』が使えるわ。魔法の遣い手は一人でも多い方がいいでしょう?」
「……」
「貴女が私を守ってくれるように、私も貴女を守りたい。王国のために戦ってくれる兵たちを、少しでも手助けしたいの」