ミーリア国戦記〜癒しの姫は、仲間たちと王国を守り抜く〜
捕虜を気遣って、ゆっくり時間をかけて行軍していたのだけど、
「おそらく今夜辺り、王都からの急使と見えることになるでしょう」
ベルナルドの予言どおり、その夜の野営地に、顔を強張らせた使いの騎士が到着した。
「姫君様にあらせられましては、速やかに王都にお戻りなさいますようにとの、国王陛下からのご伝言です」
騎士はそう言って、お父さまの刻印で蠟封された書状を差し出した。
封を切って書状に目を通すと、まず私たちへの暖かいねぎらいの言葉と、私を気遣う言葉に続いて、諸王国からの使者や急遽来訪された貴公子たちが、私との面会を求めて王宮に詰めかけていることが、穏やかな筆使いで綴られていた。
私は軽く額を押さえると、ベルナルドとゲンジ、ギラン将軍を私の天幕に集めた。レイアは最初から、私の天幕で寝起きを共にしている。
集まった皆にお父さまからの書状を見せると、早速ベルナルドが口を開いた。
「予想通りですな。姫君様はレイア殿と、騎馬隊のみ率いて先に戻られますように。捕虜は私たちが、責任を持って王都に送り届けます」
「ベルナルド、ゲンジ、貴方たちも来てください」
私は言った。
「戦勝の報告と同時に、貴方たちの叙勲もお父さまにお願いします」
ベルナルドもゲンジも辞退したけど、私が、
「この先もお二人の力を借りていくことになるでしょう。その際、お二人に然るべき身分がないと、お願いできることもできません。決して、私の家来になれと強いているのではないのです」
そう言って頭を下げると、二人は顔を見合わせた後で、微笑んで承諾してくれた。
ゲンジのへの字口は、相変わらずだったけど。
「ギラン将軍、残る兵士たちと捕虜の移送をお願いします。決して捕虜たちを、傷付けたり辱めたりすることがないように。頼みましたよ」
ギラン将軍は熊のような巨躯を折り曲げて、その地味だけど大切な役割を引き受けてくれた。
将軍は強情なところもあるけど表裏がなくて、私やお父さまの指示を絶対に守ってくれる。
夜が白み始めた頃、私はギラン将軍に後を託して、レイア、ベルナルド、ゲンジと共に騎馬隊を率いて出発した。