ミーリア国戦記〜癒しの姫は、仲間たちと王国を守り抜く〜

 王都につくと、もう城門の外にまで人々が溢れていた。手をふる人、王国と私の名を連呼する声、神々にするように、私たちにぬかずく人──。

「凱旋なさるのは初めてでしたな」

 ベルナルドが口を開いた。

「民の声に、笑顔で応えてあげなさい。人々の望む偶像でいることも、王族の努めでしょう」

「貴様、姫君様に無礼であるぞ!」

 レイアが口を挟んできたけど、

「いいの、レイア。ベルナルドの言うとおりだわ」

 私はそう言って、姿勢を真っ直ぐ保ったまま、手綱から右手を離してゆっくりと振った。
 鎧を付けた腕は思うように上がらなかったけど、腕の重さは鎧のためだけではなかったのかも知れない。

「ベルナルドは、凱旋なんて何度も経験なさっているのでしょう?」

「大体は民に混じって、凱旋軍を眺めているだけです。歓呼を受ける側になるのは珍しい」

「ときに軍師殿。貴殿はなんのために戦っておられる?」

 珍しくゲンジが自分から話しかけたから、レイアがびっくりした顔をした。

「戦の(ことわり)を識るためです、剣士殿」

 ベルナルドは言った。

「水の高きから低きに流れるように、戦いには必然の流れがあり、様々な事象が複雑に連関し合っている。その流れのどこをせき止め、どこを断ち切れば、望むように戦の様相を変えられるのか。それは魔導の学に通じるものがあります」

「そうなのですね……」

 だとしたら、今私が感じている不安や戸惑いも、ベルナルドにとってはただの観測事象に過ぎないのかも知れない。

 人々の歓声がこだまして、花吹雪が風に舞っている。
 陽光を全身に浴びながら、私たちは王都の城門をくぐった。
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