ミーリア国戦記〜癒しの姫は、仲間たちと王国を守り抜く〜
王宮に着いたら、私はレイアとベルナルド、ゲンジを連れて、謁見の間でお父さまとお母さま、それに王国の重臣たちの前で戦勝報告をした。
「リアナ、本当によくやった。まずは鎧を解いて、戦塵を洗い流してくるが良い。諸王国の王子や貴公子たちが、お前のことをお待ちかねだ」
「お父さま……」
「心配せずともよい。私とて、大切な娘に意に沿わぬ縁組を強いるつもりはない。お前は笑顔で使節や王子たちをもてなしてくれればよいのだ」
続いてベルナルドとゲンジに叙勲の儀が執り行われ、二人はミーリア王国の騎士になった。
もちろん、
「ご両者に臣従を強いるつもりはない。娘を扶けてくれたことへの、私からの気持と思ってほしい」
ベルナルドもゲンジも、騎士の位を恭しく拝受してくれた。なんだかこの二人には、全然似合わない気もするけれど。
ゲンジは相変わらず東方流のお辞儀で跪こうとしなかったけど、私が事前に儀典長や近衛騎士に事情を伝えておいたから、面倒なことにはならなかった。
そしてようやく自分の部屋に下がって、大勢の侍女に囲まれて鎧を解かれて、内衣も脱いで肌着も脱いで、大きな大理石の湯船に身を浸した。
輝くように白い大理石の湯殿には、隅々に優しい薫りの香が焚かれて、さらさらしたお湯にも赤や黄色の花びらがたくさん散らされて、ふわふわ揺れている。
私は広い湯船に身体を浸すと、久しぶりに手足を伸ばして、ほう、と溜め息をついた。
何故だろう、自分が自分じゃないような気がする。戦に勝つって、こういうことなのかな?
私、何をしているんだろう。
これからどうなるんだろう。
王国は、大切なみんなは──?
「にゃあ」
気がつくと、ヴァールが大理石の湯浴み台にちょこんと乗って、碧い目でこちらを見ていた。
「ヴァール、どこから入ってきたの?」
「にゃあ」
そう言えば、猫はお湯が苦手なんだっけ。お風呂好きの猫もいるって聞いたことはあるけれど。
私はヴァールを手招きすると、湯船の縁まできたこの不思議な黒猫の顎を、指先でちょんと撫でた。
「ねえ、ヴァール……。私、どうなっちゃうのかな……」
ヴァールは気持ち良さそうに目を閉じて、喉を鳴らしている。