ミーリア国戦記〜癒しの姫は、仲間たちと王国を守り抜く〜

 侍女や警備の兵に気づかれないように、私は足音を忍ばせながら階段を降りると、人目を避けて回廊の窓から庭園に直接降りた。ヴァールも私に付いてきて、するりと
庭園に飛び降りた。

 そう言えば幼い頃、よくこうやって王宮を抜け出して、レイアと二人で街に繰り出していたっけ──。

 庭園は月の光に照らされて、噴水から吹き出す水の音や、水路を流れる水のせせらぎが、薄闇を優しく彩っていた。

 私は木々や彫刻の陰に隠れるようにして、ゲンジに近付いたのだけど──、

「何用でござろうか、姫君?」

 やはり、この剣士に気取られずに近付くなど、私には無理だった。

 ゲンジは静かに剣を鞘に納めると、私に向き直って一礼した。
 そして、

「この季節とはいえ、夜気は身体に障る。かようなもので申し訳ござらぬが……」

 そう言いながら東方風の羽織ものを、私の肩にかけてくれた。

 それだけのことなのに、急に右目から、ぽろりと涙がこぼれた。

「姫君……」

「違うのです、ゲンジ」

 私は慌てて目をこすると、精一杯微笑んで、この異邦の剣士に話かけた。

「少し、お話しできませんか……?」
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