ミーリア国戦記〜癒しの姫は、仲間たちと王国を守り抜く〜
ひとしきり泣いて、流しきった涙が乾き始めた頃、私はゲンジに訊いてみた。
「教えてくれますか、ゲンジ?」
「拙者の識るものでござれば」
「私は、あの王子や公子たちの内のどなたかの、妃とならなければならないのですか?」
「……」
「今が大変なときだということは分かります。そして、ミーリア王国だけではなく他の国々にも、苦しみ怯える民が大勢いることも。ですが──」
私は唇を噛み締め、言葉を続けた。
「そのために、私は誰とも知らぬ御方の妃とならなければならないのですか? それが、王女の務めなのですか? それが、『光の巫女』の宿命なのですか……?!」
話すうちにまた肩が震えだして、涙が溢れて、静かに頬を伝って落ちた。
ヴァールは私の傍らで丸くなって、じっと私を見上げている。
すると、ゲンジはこう言った。
「のう、姫君。何故左様に思われる?」
「……」
「危急の刻であることは然り、守るべき民が王国の外にもいることも然り。しかしその全てを、姫君お一人が背負われることもありますまい」
ゲンジは軽く夜空を見上げた。
大きな丸い月が、私たちに優しい光を投げかけている。
「この国は、良い国だ。上は姫君の父君母君から、下は民草の端々に至るまで、皆が穏やかに優しく暮らしておる。そしてその皆が、姫君のことを大切に想っておられる」
「……」
「姫君は国の民を守りたいと思われ、自ら軍に同行されたのであろう?」
「……そうです」
「ならば、国の民も思うは同じ。皆が姫君を守りたいと考えていよう。それは、父君母君も同じはず」
私ははっとして、この物静かな剣士の顔を見つめた。
ゲンジはそんな私に軽く微笑み返すと、言葉を続けた。
「この国は、良い国だ。父君の善政が、隅々まで行き渡っておる証だろう。拙者はそう感じたゆえ、この国に加勢いたすことにした」
「……」
「慈愛に満ちたこの国で、皆から想われる姫君が、皆を想って自らを犠牲になされたのでは、話があべこべではなかろうか。──のう、姫君」
「ゲンジ……」
「大いなる光の女神の御心を、拙者ごときが察することはできぬ。だが姫君を守護する御神であれば、その御心は国の民や、父君母君と同じでござろう」