ミーリア国戦記〜癒しの姫は、仲間たちと王国を守り抜く〜
密使
次の日からも、諸王国からの使節や王子、貴公子たちの訪問は相次いだ。
そんなに浮かれていていいんだろうか?
確かにミーリア王国はロズモンドの侵攻を退けたけど、強大なロズモンド軍全体からすれば、今回の敗戦も大した傷ではないはず。
それどころか、ロズモンド軍には異形の鬼どもが手を貸していることが明らかになった。
彼の国に何が起きているのか、今はそちらを調べ、皆で対策を考えるべきなのに──。
少なくとも、今私のできる範囲の事をしようと、私はベルナルドに捕虜の尋問をお願いした。
ベルナルドなら他の者では見落としてしまう何かを、拾い集めてきてくれるかもしれない。
「捕虜たちと話してみましたが、皆深くは知らないと答えます」
尋問から戻ったベルナルドは、私たちに報告した後に、こう付け加えた。
「ただ、一般の兵たちはともかく、騎乗身分より上の者は、何かを知っていそうです」
「何か、とは──?」
レイアの質問に、ベルナルドは大げさに両手を広げてみせた。
「それがわからないのです。隊長級の者には強力な『束縛の魔法』がかけられていて、特定の話題に触れると彼等はいきなり気を失ってしまう。無理に解呪を試みると、捕虜の命に関わることになるかも知れません」
「そんな……」
「いずれにしても、何か闇の者の気配を感じます。鬼どもを操るという時点で、既にまっとうな相手でないことは明らかですが」
「今、何か私たちにできることはないのでしょうか」
私の問いに、ベルナルドは首を横に振った。
「ミーリアの勝利で反撃の機運が高まっていますが、諸王国の足並みが揃いません。重点形成をしないまま個別に反撃しても、ロズモンドに各個撃破されるだけです。それどころか──」
ベルナルドは皮肉を込めた口調で、
「軍議そっちのけで諸王国の王子や貴公子が姫君様を取り争っているようでは、先が思いやられます。ロズモンド王が知ったら踊り出すでしょうな」
おほん、とゲンジが咳払いした。
「軍師殿。苦言を呈したい思いは拙者も同じだが、姫君は剣や魔法具ではない。口を慎まれよ」
皆が驚いてゲンジを見たけど、ゲンジはいつもと変わらず、軽く目を閉じて、口をへの字に結んだままだった。
私は顔が真っ赤になってしまったけど、皆には気付かれずに済んだ。