ミーリア国戦記〜癒しの姫は、仲間たちと王国を守り抜く〜
「さて、レオン王太子の救出ですが」
ベルナルドは壁のタペストリーを地図に見立てて、説明を始めた。
「軍勢で救出に向かうには適しません。なにぶんにも遠すぎて、遠征の限界を超えています。ミーリアの王宮をこの位置とすれば──」
ベルナルドは杖の先でタペストリーの右下の隅を示すと、
「王太子が立て籠もる砦はこちら。軽騎兵のみで向かわせても、片道10日はかかります」
今度はタペストリーのずっと左上を指し示した。
「これだけの距離を、敵の襲撃と補給を気遣いながら往復するのは不可能というものでしょう」
「ならば、なんとされる?」
お父さまの問いかけに、ベルナルドは平然と答えた。
「王太子の救出は、少人数による潜入を以て行います。一騎当千の精鋭で事に当たりましょう」
「危険すぎるわ」
レイアが口を挟んだ。
「危険を恐れては何も得られません。それに事は一刻を争います。王太子の砦が攻め落とされて、王太子が処刑でもされては、全てご破算ですから」
「勿体ぶられるな軍師殿、初めからこの面々だけで行くつもりだったのであろう」
ゲンジの言葉に、全員が息を呑んだ。
「さすが剣士殿、明敏であられる」
ベルナルドは悪びれた様子もなく、説明を続ける。
「まず遠征軍と共にロズモンドの国境に近付き、そこから救出班のみが敵領内に侵入します。軍勢はできるだけ派手に動いて、敵の注意を引き付けてくれればいい。そして救出に向かうのは──」
ベルナルドは、私たちの顔を順々に眺めて、言った。
「まず、私とゲンジ、そしてレイア殿にもお願いしたい」
ゲンジは腕組をしたまま小さく頷いて、レイアは「よかろう」と小さく答えた。
「そして恐れながら、リアナ妃殿下にもご同行いただきたい」
「なんと、リアナもかっ……?!」
驚くお父さまとレイアに、ベルナルドは言った。
「私も迷ったのですが、ロズモンドには闇の者どもが暗躍している様子。万が一闇の眷属に襲われた場合、姫君様の『光の魔法』が私たちの切札となります」
「私は行きます、お父さま」
私は自分でも驚くくらいはっきりと、そう言い切っていた。
「ロズモンドの王太子がどんな方か存じませんが、救いを求めている方を放ってはおけません。行かせてください、お父さま」