ミーリア国戦記〜癒しの姫は、仲間たちと王国を守り抜く〜
お父さまはかなり迷われて、レイアは声を上げて反対したけど、ゲンジの、
「姫君を同行させるのは拙者も反対だが、軍師殿の言わんとすることもわかる。今は逡巡して刻を浪費するべきではない」
という言葉で、私は王太子の救出に同行することになった。
ただ今回の救出作戦にあたり、ベルナルドにはもう一つ計画があったようで、
「ロズモンドを牽制するのに、5千程度の兵では心もとない。しかしミーリアが自由に動かせる兵数はこれが限界でしょう。是が非でも、諸王国にも出兵していただかなければならないのですが──」
ベルナルドは私を、意味深な目で見詰めた。
「そのため妃殿下には、一芝居演じていただきたく存じます」
その日の晩餐会の後、宴に移る前に、私はお父さまの横に立って、居並ぶ王子や貴公子たちに声をかけた。
「お集まりの皆さま。私はミーリア王国の王女として、皆さまにレオン王太子の救出に御協力いただきますよう、あらためてお願いいたします」
宴に移ろうとくつろいだ雰囲気だった王子や貴公子、使者たちは、たちまち口をつぐんでお互いの顔を見合わせた。
でも、誰も口を開こうとはしない。
私は斜め後ろのお父さまを、ちらりと振り返った。お父さまは小さく頷いている。
私は声を励まして、言葉を続けた。
「宴の前に無粋なことを申し訳ありません。しかしこの場で、私はどうしても皆さまにお伝えしなければならないのです」
そして少しうつむき、軽く目元に指先を当てて──王子や貴公子たちには、私が泣いているように見えただろう──、一拍呼吸をおいて、また顔を上げた。
「私こと、ミーリア王国の王女リアナは、今回のレオン王太子救出の軍を率いて出征いたします。そのため、皆さまとはしばしのお別れとなります。いえ──」
居並ぶ王子や貴公子たちが驚き戸惑うなか、私はまた顔を伏せて、涙を拭くふりをした。
「あるいはこれが、今生の別れとなるやも知れません。それでもこれが『光の巫女』の宿命ならば、私は再び鎧を身にまとい、戦場に赴く所存です」