ミーリア国戦記〜癒しの姫は、仲間たちと王国を守り抜く〜
水を打ったように静まり返る王子や貴公子たちに、私はまた、語りかけた。
「皆さま、今までリアナに優しくしていただいて、ありがとうございました。一言それを、お伝えしたかったのです。今回の遠征は困難ですが、光の女神の御加護があれば、またこの場でお目にかかることもできるでしょう。──それでは、失礼いたします」
会場の皆が無言で立ち尽くすなか、私はいかにも涙を押さえるようにうつむいたまま、レイアに肩を支えられて、晩餐会場を下がった。
控えの間に下がった私をベルナルドは、こんな言葉で出迎えた。
「いやあお見事! 姫君様は女優の才にも恵まれておいでのようですな」
「いや……どきどきでした。皆さまを謀ったかと思うと、胸が苦しいです」
私はそう答えたのだけど、レイアはひどくおかんむりで、
「ちょっとこの似非賢者、リアナに何させてんのよっ?! こんな非常時じゃなけりゃその首斬り飛ばしてるところだわ──!!」
そう言って剣の柄に手をかける仕草をする。
でもベルナルドは涼しい顔で、
「しかしこれで、明日の昼頃までには同行を申し出る国が何カ国かは現れるはずです。彼らにしてみても、肝心の姫君様に討ち死にされては元も子もないし、姫君様を見殺しにしたとあっては外聞も悪うございますからな」
などと言ってのける。
私はそんなベルナルドの態度に慣れてきたけど、レイアは顔を真っ赤にしたままだし、ゲンジはわざとらしく咳払いした。
「軍師殿。意図は分かるが少々言葉が過ぎよう」
「いいのですゲンジ。レイアも、私は大丈夫だから」
私はそう言ってから、少し上目遣いに、ゲンジに声をかけた。
「あの、ゲンジ……」
「何でござろう、姫君」
「私は、嘘つきな女なのでしょうか? 人前であんなに堂々と嘘をつくことができるなんて。それに私、あんな演技をするのが、どこか楽しかったような……?」
「そこまででこざる、姫君」
ゲンジはへの字口のまま、ぴしゃりとそう言った。
「姫君は軍師殿の策を実行しただけ、その他には何もない。何一つ気に病むことはござらん」
でもゲンジの目元は、とても優しい気配浮かべていたようだった──。