ミーリア国戦記〜癒しの姫は、仲間たちと王国を守り抜く〜
クノイチ
翌日の昼、私たちは鎧を身にまとい、ミーリアの旗を掲げながら城門を後にした。遠征に同行する諸王国の軍勢とは、グロムス砦の先、西街道の行く手に広がるファガル平原で落ち合う手はずになっている。
ミーリア軍の指揮は、前回に続きギラン将軍に委ねられた。レイアやゲンジ、ベルナルドの派手な活躍ばかりが目立つけど、堅実に軍を動かし、戦斧を持てば猛獣のごとく荒れ狂うギラン将軍は、ミーリア軍には欠かせない柱石だ。
私たちはファガル平原に到着すると、諸王国の軍勢を野営地を築いて待つことにした。
そして、3日目の夜──。
ゲンジとベルナルドが人を連れて、私とレイアの天幕にやってきた。
「姫君、騎士殿、ご紹介いたす。こちらが拙者が呼び寄せた者でござる」
ゲンジに誘われて天幕に入ってきたのは──、
「桐華だ、よろしく頼む」
ゲンジと同じ肌の色をした、東方の女性だった。艶めく黒髪を赤い布でまとめて、顔の下半分を黒布で覆っているけど、黒曜石のような瞳は強い光をたたえていた。
あまりミーリアでは見かけない型の、とても美しい人だ。
でもそれ以上に私とレイアが驚いたのは、キリカさんの出で立ちだった。
黒い羅紗の服は肌にぴったり張り付くようで、白い腕と脚には細かい鎖帷子をまとっているけど、鎖帷子から透ける白い肌が、かえって妖しく輝いている。
短い着衣の下からは、太ももの付け根までが顕わになっていた。
私たちの感覚では、肌着のまま人前に出歩いているようにしか見えない。
呆気に取られる私たちに、ベルナルドが話かけた。
「クノイチは初めてでしたか? 姫君様」
「クノ、イチ……?」
「東方の島国で、探索や工作を生業とするニンジャの一族の中で、特に女のニンジャをそう呼ぶのです」
ベルナルドの説明に、ゲンジも言葉を続けた。
「姫君たちの御目には奇天烈に映るやもしれぬが、探索や工作において故国でこの者に並ぶクノイチはおらぬ。必ずやお役に立ち申そう」
ゲンジの説明を受けながら、キリカさんは身じろぎもせずに、私ににぴたりと視線を合わせ続けていた。