ミーリア国戦記〜癒しの姫は、仲間たちと王国を守り抜く〜
「あの……キリカさん」
私は、初めて見るクノイチに声をかけてみたのだけど、
「いつもそんなお姿なのですか?」
緊張して変な事を訊いてしまった。
「忍び装束がそんなに珍しいか?」
「あ、あの、そんなわけじゃ……」
見かねたゲンジが、助け舟を出してくれた。
「キリカ。姫君はその姿が、陽の下では目立ち過ぎるのではないかと御心配されているのだ」
キリカさんは自分の手足をまじまじと眺めていたけれど、急に「御免」と呟くと、その場でくるりと身を翻した。
つむじ風が吹き抜けた、そんな一瞬のあとには──、
「これでよいか?」
私とレイアは目を疑った。
ほんの瞬きする間に、キリカさんはこの大陸風の革鎧をまとった、軽やかな弓兵の出で立ちに変わっていたからだ。
顔を覆っていた黒布も消えて、すっきりとした美しい顔立ちが、篝火に照らし出されていた。
「『変化の術』だ。クノイチなら誰でも、この程度のことはする」
淡々と話す口ぶりはどこかゲンジに似ていて、なぜだか、胸の奥がちくりとした。
自分でもよく分からない胸の痛みに、私は余計なことまで訊いてしまった。
「キリカさんは、ゲンジとどこで知り合われたのですか?」
「ゲンジ、ゲンジと気安く呼ぶが──」
キリカさんの口調が冷くなった。
「お前は源二郎様がいかなる御方か知らぬから、そのように無遠慮な口がきけるのだ」
「キリカ」
ゲンジがぴしゃりと口を挟む。
「今はただの素浪人だ。それ以外の何者でもない」
「申しわけありませぬ、源二郎様」
キリカさんはゲンジに一礼した。
なぜだろう、胸がきゅっとする。
キリカさんは、私の知らないゲンジの顔を知っている。
ゲンジは一体、何者なんだろう。
ゲンジとキリカさんの関係は──?