ミーリア国戦記〜癒しの姫は、仲間たちと王国を守り抜く〜
行軍
三刻ほど行軍した先の休息地で、私はアルブレヒト王子とヒサーヌ王子をお茶にお招きした。
本当はあまり顔を合わせたくない二人だけど、私が二人の相手をしている間にベルナルドとゲンジが、リヴァイ王子、ドーリア卿、ハヴェル卿に遠征の真の目的を説明をする手はずになっていた。
実は囮役の二人の王子が、真実を知ったら何を言い出すか分からない。
私は天幕の中に香を焚いて、途中の道々で摘んだ草花を黄銅の水瓶に生けて、瑠璃のランプに蝋燭を立てて、火を灯した。
いかめしい戦鎧は外して、絹の光沢が優しい薄藤色のドレスに着替えて、王女の威を表す、宝石をあしらった首飾りを身につけた。
いつもは従者たちが手分けして準備してくれるのだけど、この遠征に戦いを知らない従者たちを連れては行けない。
全て自分で、準備した。
湯沸かしを火にかけて、お湯が湧くのを待つ間、私はぼんやりと考えていた。
戦うって、想像していた以上に難しいし、人にお願いしたり人に指図するのって、もっと難しい。
「それが政治というものです、姫君様」
今はこの場にいないベルナルドの言葉がはっきりと聞こえたようで、私はぎょっとして天幕の中を見廻した。
「どうしたの、リアナ?」
騎士の平服に着替えたレイアが、心配して声をかけてくれる。
私一人で王子たちを天幕に招き入れると、周囲に密会と思われかねないので、剣を帯びたレイアに付き添ってもらっている。
レイアは私に歩み寄ると、そっと私を抱きしめてくれた。
「心配しないでリアナ、あなたは私が守るから。嫌な思いをさせて、ごめんなさい」
5歳年上のレイアは、レイアのお母様が私の乳母だったこともあって、私が物心ついた頃から私の姉のような存在だった。
レイアが騎士の誓いを立てて、公の場では私にへりくだった言葉を使うようになっても、私たちの関係は変わらない。
「あなたは私が守るから。何があっても」
そう言ってレイアは、優しく私の髪を撫でてくれる。
レイアの優しい指先を髪に感じながら、私は一粒涙をこぼした。
「にゃあ」
テーブルの上のヴァールが、私を気遣うように一声鳴いた。