ミーリア国戦記〜癒しの姫は、仲間たちと王国を守り抜く〜
私が淹れたお茶を口に含むと、アルブレヒト王子は驚いた顔を見せた。
「これは……!」
そして私に向き直って、
「絶妙な酸味と甘味が素晴らしい。いったい何が入っているのですか?」
「野いちごを干したものと、春バラのつぼみを干したものを茶葉に混ぜて、お湯で煮立てました。後は柑橘の絞り汁とハチミツで味を整えて……」
野いちごも春バラのつぼみも、春にみんなで野山に出かけたときに、レイアや次女たちと一緒に摘んでおいたものだった。
それを天日干しにして、壺に封をして風通しのいい書棚の隅に置いて寝かせて、秋から冬に向かう季節、みんなで茶器を持ち寄ってお湯を沸かして、甘い焼き菓子を囲んで、楽しいお話をしながらお茶をするのが、私の毎年の楽しみだった。
それが、今年は──。
「いや、リアナ王女は美しいだけではなく、味覚にも鋭敏なのですね」
アルブレヒト王子はそう言って褒めてくれるけど、なんでこの王子に褒められても、少しも嬉しくないのだろう?
「アルブレヒト、私を忘れてもらっては困るな」
アルブレヒト王子一人でも持て余しているのに、ヒサーヌ王子が話に割って入ってきた。
「見目麗しく心根優しく、料理も上手。そして光の女神のご加護を受け、精強なミーリア軍を束ねる将でもあられる」
ヒサーヌ王子は、少し癖のある黒髪をかきあげながら、私に笑顔を見せた。
「リアナ王女。あなたは非の打ち所のない、類まれなる御方です。是非、我が后に──」
「ヒサーヌ、勝手に話を進めるな。リアナ王女はこの私が──」
(……私は、貴方たちのどちらに嫁ぐのも嫌です)
私は泣き出しそうな顔で、レイアを見た。
「アルブレヒト王子、ヒサーヌ王子、恐れながらリアナ王女がお困りです。少しは慎んで──」
レイアが怒鳴りだす一歩手前で、そう声を上げた時だった。