ミーリア国戦記〜癒しの姫は、仲間たちと王国を守り抜く〜

 天幕の外が急に騒がしくなって、

「お控えください、こちらはリアナ王女の天幕になります」

 押し止めようとするミーリアの騎士の言葉を破るように、張りのある声が響いた。

「構わねえだろ、俺だって王子様だぜ」

 そして天幕の御簾を勢いよく引き上げて、その人たちが入ってきた。

 最初に入って来たのは、見るからに精悍な、銀に輝く甲冑を纏った男の人だった。
 無造作に束ねた黒髪から、戦場の匂いが漂ってくるようで、左の頬に大きな刀疵(かたなきず)があった。けれど灰色の瞳は、どこか優しげな雰囲気がした。

 続いて入って来たのは、甲冑の上に緑の法服を纏った男の人だった。
 年の頃は銀の甲冑の男の人と同じくらいだろうけど、雰囲気がまるで違う。たった今櫛で梳いてきたように真っ直ぐな金髪と、春の海のように澄んだ碧い瞳が印象的だった。落ち着いた雰囲気を漂わせ、法服を着ていることもあって、武将ではなくて若手の文官に見える。 

 そして最後に入って来たのは、全身に黒い鎧を纏った、天幕に背が届きそうな偉丈夫だった。
 背の高さならギラン将軍といい勝負のその男の人は、黒髪を短く刈り上げて、代わりに豊かな口髭(くちひげ)をたくわえていた。

 会うのは初めてだけど、私にはこの三人が誰なのか見当がついていた。
 そして、その人たちは、名乗った。

「お初にお目にかかる。俺はウォラス王国の第三王子、リヴァイだ」

「ラマン共和国より参上いたしました。執政官ダヤンが長子、ハヴェルと申します」

「南部都市同盟より兵を預けられ、推参した。我が名はドーリア、お見知りおきを」

 そして、三人は天幕の絨毯にひざまずき、声を合わせた。

「リアナ王女に、拝謁致します」

 ウォラス王国のリヴァイ王子。
 ラマン共和国のハヴェル卿。
 そして有名な傭兵隊長ドーリア卿……。

 諸王国の中でも特に優れた三人の武将が、私の天幕に一同に会したのだった。
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