ミーリア国戦記〜癒しの姫は、仲間たちと王国を守り抜く〜

 私に背中をなでられて、心地よさそうに喉を鳴らしている黒猫を眺めながら、

「名前、考えなきゃね」

 私は独り言のように呟いた。

 そして寝室の中をきょろきょろ見回して、ふと蝋燭の灯が揺れる、燭台の根元に目が止まった。

 そこには、青銅の土台にミーリア王家の紋章が鋳抜いてあった。

 ミーリア王家の紋章は、伝説の神獣シュテルヴァールを(かたど)ったものだった。
 シュテルヴァールは、蒼い炎をまとった黒豹の姿をしていて、光の女神の御使いとして、闇の魔物を喰いちぎるのだと言う。
  
「ヴァール……。あなたの名前、ヴァールはどうかしら」

 すると黒猫は私の目を見て、「にゃあ」と返事をするように、鳴いた。

「そう、気に入ってくれたのね」

 私は黒猫──ヴァールを抱き上げると、額に軽く口づけした。

「これからよろしくね、ヴァール」

 ヴァールは目を細めて、ゴロゴロと喉を鳴らした。
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