ミーリア国戦記〜癒しの姫は、仲間たちと王国を守り抜く〜
王太子
国境へ
私たちは心強い味方を得て、改めてロズモンド領への行軍を開始した。
ただ、これだけの大軍を催すのはミーリア王国始まって以来のことで、行軍が始まってすぐに、ギラン将軍が表情を曇らせて私に相談しにきた。
「確かに頼もしいお味方ですが、糧秣は大丈夫ですか? 見たところお味方には補給の縦列がついて来ていないようです」
ギラン将軍は軍旗を掲げて堂々と進む味方の軍勢を眺めながら、ため息をついた。
「これだけの軍勢をミーリア一国で養おうとしたら、今年の暮には王都の食料庫が空になってしまいますぞ」
そんなギラン将軍に、私は笑顔で言った。
「何も問題はありません。そうですね、ベルナルド」
ベルナルドは小さく頷くと、説明を始めてくれる。
「実はドーリア卿の南部都市同盟から、物資提供の申し出がありました。他大陸との交易も含めこの地の通商を独占する彼等のこと、その程度の負担は大したことではないのでしょう」
ギラン将軍は感心したように唸ったけど、実は問題はもう一つあった。
都市同盟から海路ミーリアの港に集められた物資を、どうやって行軍中の軍勢に届けるか、だ。
だがこの問題は、ベルナルドの手で既に解決済だった。
「ミーリアと周辺国の市場に高札を立て、今回の遠征の物資輸送に携わった商隊には通常の倍の料金を、特に輸送量が多かった商隊には3倍の料金を払うと知らせました」
ベルナルドは当たり前のことのように、淡々と話した。
「必要な数の馬車を2日で確保できたので、後は5里ごとに集積所を設けてその間を割り当てた商隊に往復させ、物資をミーリアの港から遠征軍まで逓伝させます。これをロズモンドの国境まで繰り返せば、軍勢が飢えることはありません」
ギラン将軍はぽかんとして、ベルナルドの説明を聞いていた。
将軍の驚きも無理はなくて、馬宿ごとに早馬を繋いで文書を早送りさせるのは普通にある仕組みだけど、それを何倍にも拡大して物資輸送に用いるなんて……。
誰も考えつかなかったことを、この銀髪の魔道士は、いとも簡単に創り出して見せた。
「姫君様、よくよくお聞きください」
ベルナルドは真顔で、私にこう告げた。
「不可能と思ってしまえば、何事もなし得ません。その状況で不可能なことなら、状況そのものを変えてみる。それが、兵法の真髄です」