ミーリア国戦記〜癒しの姫は、仲間たちと王国を守り抜く〜

「まあ、とにかくだ」

 リヴァイは頭の後ろをガリガリと掻きながら、皆に確認するように話しかけた。

「国境に着けばあのやんごとなき王子さま方が、(みずか)ら派手に突撃してくれる。全てはそれからさ」

 私がアルブレヒト王子とヒサーヌ王子に言い寄られて、今にも泣き出しそうになっていたとき、リヴァイが嘲りを加えて二人を追い出してくれたのは、実はリヴァイに考えがあってのことだった。

「あれだけ(あお)っときゃアルブレヒトもヒサーヌも、俺を見返そうと死にものぐるいでロズモンドに突撃してくれるだろう。あの二人の兵とロズモンドの連中にしてみりゃ、迷惑千万な話だが」

 最初にリヴァイからその話を聞いたとき、私はリヴァイの策に感心するより、あきれてぽかんと彼の顔を見つめてしまった。

 そんな私の様子に気付いて、リヴァイは浅黒い顔に人懐っこい笑みを浮かべて、こう話しかけてくれた。

「姫さん。俺はハヴェルやドーリアのおっさんみたいに、こまごま策を巡らせたり、いちいち準備するのが面倒なのさ。その場に至り、周囲を見渡して、使えるもの、利用出来るものを漏らさず集めて、事に臨むんだ。──その方が、面倒がないだろ」

 驚きあきれて言葉が出ない私に、ハヴェルは困ったような笑みを浮かべながら、こんな言葉を添えた。

「そんな(ひらめ)き、と言うか、思いつきだけの策で連戦連勝してしまうのだから、リヴァイは本当に恐ろしい人です。私はロズモンドの将兵に同情すら覚えますよ」

 諸王国の連合軍とロズモンドの主力軍の一大会戦、「キリガラ平野の戦い」で、リヴァイも諸王国軍と一緒に後退を余儀なくされたけど、リヴァイの下で戦った兵たちは、口を揃えてこう言ったそうだ。

「ドーリア卿が軍の総帥で、リヴァイ王子が副将だったなら、あの戦いは勝っていた」と──。

 ちなみにその逸話を聞いたとき、怖いもの知らずのレイアは、ハヴェルにこんな質問をしていた。

「ハヴェル卿はそのとき、何をなさっていたのですか?」

「私は皆の退路を守るために、後方の街道沿いに兵を伏せていました。ドーリア卿に頼まれたということもありますが、そんな地味な役目、私以外に誰もやろうとしませんでしたから」

 ハヴェルは紅い口元を軽く緩めて、そう答えた。
< 56 / 61 >

この作品をシェア

pagetop