ミーリア国戦記〜癒しの姫は、仲間たちと王国を守り抜く〜
言祝を奏し終えると、私の身体に満ちた光の粒が躍るように大気に溶け出し、翠に輝く風となって、目に映る一帯を大きく撫でていった。
私の光の魔法、『癒しの風』──。
大気そのものが翠に染まる頃、黒く沈黙していた森が激しくざわついて、突風に弄ばれるように激しく揺れた。
森に潜むオークやゴブリンたちの、断末魔の叫びだ。
「行けっ、兵士たち! 闇を払い、この地に光をっ!!」
私が腕を振り下ろすのと同時に、先鋒のアルブレヒト王子とヒサーヌ王子の軍勢──ヴォスタル王国とシュクラン王国の兵士たちが、喚声を轟かせながら前進を始めた。
「なるほど。リヴァイ殿の言われたように、ご両者ともやる気満々ですな」
ベルナルドが、突進を始めた先鋒軍の様子を眺めながら、皮肉っぽく呟いた。
リヴァイに手ひどく侮辱されて、アルブレヒト王子とヒサーヌ王子はリヴァイを見返そうと、意地になって敵に向かっていく。
「でも、士気が高いのは良いことではないのですか?」
私の問いに答えたのは、レイアだった。
「兵士たちは人形じゃないわ、士気も体力も無限に続くものじゃないのよ」
そして、私に武術の手ほどきをするときのように、優しく諭してくれる。
「軍を率いる将は、そんな兵たちの気と力を感じ取って、時には鼓舞して、ここ一番というときに最高の状態で敵にぶつけるの。それが将たる者の心得だと思っているわ」
レイアは戦場の金言を私に示してくれたのだけど、すぐにベルナルドとゲンジの意外そうな表情に気が付いて、
「何驚いてるのよ、私だって伊達に騎士長しているわけじゃないんだから。大体あんたたち、私やリアナに失礼過ぎるのよ」
そう言って口を尖らせる。
でもレイアがこんな軽口をきくなんて、私たちが打ち解けてきた証拠だと思う。
戦場だというのに、私はちょっと笑顔になっていた。
「先鋒が森に入りますぞ、姫君」
ゲンジの言葉通り、ヴォスタル王国とシュクラン王国の兵たちが、黒い森の中に殺到していく。
戦いが始まった。