ミーリア国戦記〜癒しの姫は、仲間たちと王国を守り抜く〜
ロズモンドは、森の暗がりにオークやゴブリンを潜ませ、森を貫く街道の出口には柵を設けて私たち連合軍を迎え撃つ手はずだったのだろう。
でも私の『癒しの風』でオークやゴブリンたちが一掃されて、危険が無くなった森の中をアルブレヒト王子のヴォスタル王国軍とヒサーヌ王子のシュクラン王国軍が一気に駆け抜けて来てしまい、ロズモンド軍は浮足立っていた。
本当なら森の向こうの様子は、この丘からは木々に遮られてわからない。
でも、
「これを御覧ください」
ベルナルドが小さく呪文を唱えると、魔法の杖の先の宝珠が輝きを増して、遠見の水晶玉のように森の先の情景を映し出していた。
宝珠のおかげで、私たちはまるで鳥にでもなったように、森の先で行われている戦いを見下ろすことが出来た。
「魔法とは、本当に便利なものですね」
思わず言葉を漏らす私に、
「ご自身も強力な魔法の遣い手ではありませんか」
ベルナルドは苦笑して、こう答えた。
「火炎や氷結、雷撃の魔法などが強力なのは勿論ですが、本当に役立つのはこのような小さな魔法です。真に優れた魔道士とは、必要なときに必要な魔法を、素早く発動させられる者のこと。たとえ山をも砕く雷撃を呼び起こす術者でも、詠唱に手間取るようではゴブリンにすら首をかかれかねません」
ベルナルドのそんな説明の間にも、森を越えた先鋒軍はロズモンドの軍勢にしゃにむにぶつかっていく。
さすがのロズモンド軍も、じりじりと後退していくように、私には見えた。
だけど──、
「いかん」
ゲンジが急に声をあげた。
「敵の部隊が入れ替わった。ロズモンドの反撃が始まるぞ」
わずかな軍列の動きから、ゲンジは敵の前線部隊が撤収して、新たな部隊が突出してきたのを見逃さなかった。
「『ばか王子』たちの健闘も、ここまでですか」
ベルナルドのため息が終わらないうちに、森の向こうの戦いは、様相が一変していた。