猫かぶりの柳沢くんは、独占欲が強め
岸井さんがぐったりとしたまま言った。
何の話をしているのか咄嗟に理解できなくて、私は何度か目を瞬かせる。
「あ、ああ……前の……」
「あれから一時間後ぐらいに、様子見に行ったのよ。そしたら何か鍵開けられてて」
「うん。柳沢くんに助けてもらえたから」
言ってしまってから、「柳沢くんに」という部分は言わない方が良かったかな、と少し後悔した。
だけど、岸井さんは私の言葉に目を吊り上げるようなことはしなかった。
「そう。良かったわね」
「うん」
「奏多くんのことを好きになった人に嫌がらせをする。最初は、すれ違う時にわざとぶつかる程度だったのよ。……だけど周りが私がやることを面白がりだして、その期待に応えるうちにかなりエスカレートしちゃったのよね」
岸井さんはどこか寂しそうに笑う。
「皆が望むキャラクターで居続けないと、離れていっちゃう気がしてね。あなたが奏多くんと付き合いだしたのは本当に悔しかったけど……同時に少しホッとしたのも確かなの。もうこれでこんなことするのも終わりかなって」