猫かぶりの柳沢くんは、独占欲が強め
私は少し口ごもってから、静かに首を振った。
「ちょっとその勇気はないかな。元々は、山内のことを見返すために素敵な恋愛をしてやろうと思って、清楚な女の子らしくしてたんだけど……できれば、ここではこのまま通したい」
「だろうね。そう言うと思った」
柳沢くんはそう言って息を吐き、表情を緩めた。
それから、おもむろに私の手を取る。
さっきナンパ男につかまれていた辺りを、彼はまるで割れ物でも触るかのような優しさで撫でた。
「ま、とりあえず怪我がなくてよかったよ。……ああ、違うな」
何を思いついたのか、柳沢くんがいたずらっぽい笑顔になる。
「お怪我がないようで安心いたしました、葉澄お嬢様」
「っ……!執事!」
「役になりきっての接客、案外楽しめたよ。……まあ、あそこまで人がくるとは思ってなかったけど。疲れた」
私が当番をしていたときはそこまでの賑わいではなかったし、やっぱり柳沢くん効果なんだろうな。