猫かぶりの柳沢くんは、独占欲が強め
──そんな和やかな時間が、突然終わりを告げた。
「あれ?もしかして……香田?」
後ろから聞こえたのは、あまりに聞き覚えのある声だった。
私は喉に詰まりかけたタルトを水で流し込んで、恐る恐る振り返る。
そこに立っていたのは、水差しを手に持ったカフェ店員の男。
私と目が合うと人懐っこい笑みを浮かべた。
「やまうち……」
久しぶりに口にしたその名前は、記憶を一気に一年前まで引き戻す。
山内。私は彼のことを、そう呼び捨てで呼んでいた。
顔は女子人気の高いいわゆるイケメン。しゃべりが上手くて皆の中心的存在。
高校生になって、このカフェでバイトを始めていたらしい。少し髪を染めて、派手な印象が増している。
「よお!久しぶりじゃん!卒業式以来か?ああ、でもまともにしゃべったのはもっと前か」
山内は私たちの席まで来ると、コップに水のお代わりを注ぎながら言った。
「そう、だね……」
「つーかしばらく気が付かなかったわ!髪伸ばして……ははは、化粧までしてんのかよ。野生動物が色気づいてやがるな!」