猫かぶりの柳沢くんは、独占欲が強め
「車ちっさい!おもちゃみたい!お~、海はキラキラして綺麗だなぁ。あ、柳沢くん、高校が見えるよ!」
大きな窓に張り付きそうなぐらい前のめりになって、私はあちこち指をさす。
柳沢くんはそんな私の顔を軽くのぞき込むようにして見た。
「楽しそうだね」
「うん!……あ、『やっぱり馬鹿だから高いところが好きなんだな』とか思ってる?」
「思ってる」
「わあ、本当に思ってた」
「まあでもそれ以上に、少し安心したよ。ようやくいつも通りの表情に戻ったね」
「え?」
私から目を逸らした柳沢くんは、下に広がる景色に目を向けて、ガシガシと頭を掻いた。
「さすがにちょっと調子狂うから。いつものほほんとしてるヤツにこの世の終わりみたいな顔されると」
「この世の終わりみたいな顔……」
そういえばさっき飴を食べさせられたときも、辛そうな表情をしていると指摘された気がする。
自覚はなかったけど、山内と再会した瞬間から、きっと暗い顔をしてたんだろうな。