もふもふ魔獣と平穏に暮らしたいのでコワモテ公爵の求婚はお断りです

　彼女のかわいそうなメイドたちが、主人の不機嫌を悟って身体を縮こまらせる。

　かつては美しい聖女として、今は魔女に力を奪われた悲劇の聖女として愛されるラベーラは、メイドたちの前でまでその姿を演じようとしない。甘い言葉をささやかずとも言いなりになる、とても便利な〝物〟だと思っているからだ。

　それに、たとえ使用人たちがラベーラの本性を明かしたところで、人々は聖女としての彼女を信じるだろう。ラベーラは口の軽い愚かな裏切り者を、傷ついた表情で断罪すればいい。

　穢れを知らないとうたわれるラベーラの手は、見えないだけで数多の血に濡れていた。気に入らない者は皆、目の前から消してしまうからだ。