初恋の味は苦い
皿の上に一つだけ残ったエビにフォークを突き刺すと、ブリッとした力強い手応えだけが手に伝わった。

オフィスビル隣一階に入ったカフェ。
入店して15分で私はしらすとエビのペペロンチーノを平らげた。

さてどうしよう。
気が緩むと口元も緩む。

「覚えてる?俺のことー」

覚えてるよ、覚えてるに決まってますとも。
舌の上で分断されたエビたちが踊る。

でも、と私はフォークを皿の上に置いた。

10年の月日が流れてる。
そこに私はいなかった。
別の人生を生きてきたのだ。

きっと今の多田祥慈は、あの頃の多田祥慈ではない。
もしかしたら結婚して子供もいるかもしれない。

そう思った途端、一気に心が曇った。

女子大、会社と、私はあれからいろんな人に出逢ってきたはずだ。
それなのにこうして10年の期間を忘れるほど、彼の存在はなぜ強いんだろう。

「隣いい?」

ふと聞き慣れた声にハッとした。
私は驚いて見上げると、多田祥慈がそこに立っていた。
< 12 / 68 >

この作品をシェア

pagetop