初恋の味は苦い
「嫌だったら他のところにするけど」

そう言って多田祥慈は笑う。私はブンブンと真横に首を振った。

「どうぞ」と隣の席を指すと、彼はブラックのアイスコーヒーをテーブルに置いてから静かに私の隣に腰掛けた。

「まだ暑いね」

そう言って笑いながら、マスクを取ったので、思わずつられるように見てしまった。

ストローでコーヒーを一口飲んだ後、「ん?」と私に目配せをする。

いけないものを見てしまった。
焦るように私もカフェラテを流し込む。
なんでよりによってこんなにニンニク効いたペペロンチーノを注文してしまったんだろう。

「ねえ、りっちゃんだよね?」

多田祥慈はそう言って私の方を見てきた。その顔は変わらない笑顔だ。

「ですね」

私はそう笑って返した。

「まさかこんなタイミングで会うなんて思ってなかったしさ」
「うん」
「りっちゃんもやりにくいよね」

多田祥慈がそこまで言ってきたところで、彼が注文してたボロネーゼのパスタが運ばれてきた。

軽く店員に礼して、再び私の方を見る。

「やりにくいでしょ」

そう言って笑う。
変わらない笑顔で。

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