初恋の味は苦い
優希が浮かない顔をして戻ってきたのはそれから30分経った後だった。

こんなに分かりやすく顔に出るタイプだったっけ、と自分の目を疑う。

私の背後を通り過ぎようとした優希の腕を捕まえる。

「優希、何かあった?」

そう聞くと、優希がげっそりとやつれたような表情で私の方を見た。

「彼女いるって」
「ん?」
「彼女いるんだって、多田さん」

きっと私の顔も分かりやすく曇っただろう。
顔面の筋肉すべてが硬直したようだ。

彼女。

痛烈な二文字。

口角ってどうやって上げるんだっけ。

脳が笑えと命令出しても、全く口元が笑おうとしない。

彼女。

いるよなあ、そりゃあ。

そんな私の口からやっと出てきたのは、「ああ、いそうだもんね」だった。

優希は分かりやすくため息をついて、自分の席へと戻っていった。

私は次の瞬間開いたドアの方を反射的に見てしまった。

笑顔で他の社員と会話する多田祥慈。

痛い。
胸がチクチクと、しくしくと痛む。

あまりにも久しぶりの痛み。

そう、これが嫌だったんだ。
恋の、こういう痛みが嫌だったんだ。

多田祥慈が私を見つけてくれたせいで、思わず目が合ってしまった。

向こうは反射的に微笑みを返す。

私は?
私は上手く笑えてるだろうか。

笑えてるわけがない。

なんとなく目を逸らしてしまった。

だから恋って嫌なんだ。

まだ恋が始まる前に分かって良かった。
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