初恋の味は苦い
「俺のこと、嫌い?」

続けられた彼の言葉は、彼の優しさでもあり弱さだった。このまま私を押し倒すことのできない人。そんな彼を好きだったし、そんな彼の優しさをこの3ヶ月利用してたのかもしれない。

私は頭を下げたまま首を横に振る。

「俺はただりっちゃんのこと好きなだけなんだけど」

ええ、ええ、ええ、そのセリフ、もう何十回も聞きました。
その度に私、「好きだったらもうちょっと待ってほしい」って言いましたよね。

私はゆっくり祥慈の顔を見た。

なんとも言えない、情けない顔。

こんな顔にさせたのは私だ。

「怖い、私はまだ」
「なにが?何が怖いの」
「全部が怖い。まだ祥慈には見せたくないところもあるし、今のままで私は楽しいし」

私の言葉で会話が止まる。

と、突然バタンと真横に祥慈が倒れた。

「りっちゃん、俺もう無理」

初めてだった。
初めて祥慈は音をあげた。

「ここで今俺のこと振って」

弱々しい声で祥慈が言う。
そんな祥慈を今度は私が驚いて見る。

「俺、もう受験だし、こんなことで悩んでる場合じゃないし。振って」

そう言われた途端、馬鹿な私の頭の中を走馬灯のように祥慈との思い出が駆け巡る。
元はと言えば、私の一目惚れ片思いから始まった。

一個上のバレー部の先輩、多田祥慈。

やっとの思いで連絡先を交換して、付き合ったのは去年の夏。
キラキラと夏祭りやクリスマスが頭の中を通過する。

ああ、かっこよくて、優しくて、本当に大好きな祥慈。

本当に好きなのに、なぜ。

なぜ私は今ここで彼を振らないといけないの。

「別れてください」

あーあ、私の馬鹿。

祥慈は私の声に静かに目を瞑る。
終わり、終わった、ジ・エンド。

祥慈は布団に頭を擦るように、そっと頷いた。

高校2年の冬だった。
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