初恋の味は苦い
店を出ると、来た道、川沿いを今度は川の流れに逆らうように戻る。

「どこから電車乗るの」
「俺、東西線だからちょっと歩く。りっちゃんは」
「そこから大江戸線」
「なるほどね」

酔った後の外の散歩は気持ちいい。
エアコンとは違う、匂いとか湿りを含んだ風に当たると、それだけで贅沢だ。
私は顎を上げて風のくる方を嗅ぐ。

「ねえねえりっちゃん」

隣で祥慈が静かに口を開く。

「一駅歩かない、俺と」

私はゆっくり彼を見る。

「気持ちいいし。こんな夜は」

それが彼の口実らしい。
私が答えに躊躇っていると、さらに続ける。

「川沿いの散歩ってよくない?まあ、別に俺一人でもどうせ歩くし」

少し口を拗ねたように尖らせて、顔を反対側に向けた。

「べつに、一駅ならお供するけど」

私はそっとその顔の表情を伺うと、祥慈はそんな私に気付いてニッと笑った。

「彼女だったら今手繋いでたけどね」
「え?」
「俺たち友達だもんね」

何か言いたげな目を向ける。
そしてさっと手のひらを「はい」と見せてきた。

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