初恋の味は苦い
私はあっけらかんと聞いていた。祥慈は少し気まずそうに視線を逸らして、店員を探すフリをした。「ねえ!」と私は祥慈に問い詰めると、誤魔化すようにふにゃふにゃと笑う。

「なんでりっちゃんの前でそんな彼女との馴れ初め言わないといけないの」
「だって好きじゃなかったとか言うから」

祥慈はまたも面倒くさそうに頭をポリポリ掻いて、視線を泳がせる。

「まあ、まあ、まあ、そうかな」
「そうなんだ、エッチしたいから付き合ったんだ」
「りっちゃん、そんなに酒弱いの?」
「じゃあさ、聞くけどさ、私とはエッチできなかったから黒歴史になってんの?」

馬鹿なこと言ってることは分かってる。でも頭が、脳みそがブレーキをかける前に口から出ていた。

私って馬鹿だ。

目の前で困ったように笑う祥慈を見て、時間差で後悔した。

問い詰めてどうにかなるものじゃない。
過去は戻らないのに。

「りっちゃん」

少し口調を強めて目の前の彼は言う。

「ちがうよ」
「嘘だよ、私と付き合ってても何もなくてつまらなかったから黒歴史なんでしょ」
「りっちゃん、なんでそう言うの」
「だってそうとしか思えないもん」

気まずいこの空間のテーブルに、やっと唐揚げが運ばれてきた。

まだビールは2割くらいしか飲めてない。

今宵はまだ始まったばかりだと言うのに。

祥慈は座布団を拳で軽くリズムを取るように叩きながら、頭の中の言葉を整理しているようだった。

「今の俺なら、もう少しスムーズに力まないで付き合えてたんじゃないかなあと思って」

彼はやっとゆっくり静かにそう言った。

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