初恋の味は苦い
「どういうことですか」
「んー、俺、あれが全部初めてだったから余裕なんてなかったし、自分の一方的な想いばっかりで全然スマートじゃなかったし、思い返すと後悔ばっかりっていうか、思い出したくないっていうか」
「私はすごく良い思い出になってるよ」
「嘘だよ」
「全然祥慈をかっこ悪いなんて、あの頃は思ったことなかったよ」
「かっこ悪かったよ」

私がグッと口を閉じてる間に、祥慈はこの張ちきれそうな空気を打破するように唐揚げにレモンを搾った。

絞り終えてから「あ、かけてよかった?」と私に確認してきたから、私は頷く。

「だってあの頃の俺、ただの盛りのついたサルだったじゃん」
「それは今もじゃん」
「うん、そうだね」

うんうん、と噛み締めるように頷いて祥慈はビールを飲む。他人にも分かりやすいため息を吐く。

「もっといい男だったら、あの時りっちゃんと別れなかったんじゃないかな。でもやっぱり余裕がなかったんだよな。受験もあったし、大学行ったら離れるし」

チラリと目が合った。

「高校生にしてみれば、付き合いながら頑張るとか、そんな要領よくできるわけもないし、別れるしかなかったんだよ」

彼は自分に言い聞かせるように言った。

「頭ん中、その人のことでいっぱいになるし」

祥慈がまっすぐ私の目を見つめる。
高校生の時の、あの頃の祥慈の目をしている。

テーブルに置いた私の手の、人差し指をそっとつまんできた。

「俺、りっちゃんのことめちゃくちゃ好きだったよ」

10年ぶりに彼の言葉が頭の中をこだました。

「私もすごく好きだったよ」

私の指先を撫でる彼の指を、今度は私がつまむように撫で返した。

祥慈も少し、酔いが回ってるようだった。
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