初恋の味は苦い
お互いの手を弄ぶように、お互いの体に身を委ねるように、ぬるい夏の残りの夜を歩きながらホテルにチェックインする。

駅前にある、利便性で選んだ全国チェーンのビジネスホテル。隣同士のシングル2部屋。

エレベーターの中でなんとなく祥慈がこの後の展開を意識してるのが伝わってくるけど、私は何も気にしないふりしてドアが開くのを待つ。

ドアが開くと目の前に部屋を案内する矢印が書かれていて、「611はこっちか」と呟きながら祥慈は私の手を引いていく。

この後、私はどうするつもりなんだろう。

頭が回らない。
全部流れに身を任せよう、そんな気分だった。

端の方に二つ611と612の部屋は並んでいて、その手前の611の前で祥慈が立ち止まる。

少し見下ろすように私を見る。
何かを求めてきてるのは分かるけど、私はどうしようもなくドアノブに手を掛けた。

祥慈は視線を下げて、少し口元に笑みを浮かべる。

「じゃ、おやすみ」

かすれた声でそう言った。

「おやすみなさい」

私は自分の気持ちがよく分からないまま、カードキーを挿してドアを引いた。

「ちゃんと寝な」
「はーい」

軽く微笑み返して、私は静かに部屋に入った。

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