初恋の味は苦い
ふとパソコンから顔を上げ、ストレッチのふりしてフロアを見渡す。

画面と睨みっこする男・男・男。

なのになぜ・・・。

業務用のスマホが振動した。

「はい」と電話に出ると、さっきチャットで資料についてやり取りしていた先輩だった。

「この最新版ってどこに入ってた?」
「全体の説明資料の商品フォルダに5月6日の日付で入ってますよ」
「商品・・・?あ、ここか、はいはーい」

プツッと電話が切れた。
ありがとうの一言くらい言え。と思わなくはない。

メールの送信ボタンを押してから、ひと呼吸置く。

入社当初はベンチャーベンチャーと騒いでいたこの企業も15年を過ぎ、成長期が終わったようになぜか落ち着いてしまい、それに伴って若手社員もいつしか中堅ばかりになり、気づけばいい年の大人。

最先端オフィスのように感じたこの空間も、ところどころ古さを感じるくらいには汚れてもきてるし、女子トイレの洗面台蛇口は先日自動で水が出てこなくなった。「故障中!手動で出してください」という貼り紙が虚しい。

他の元ベンチャー企業たちは急拡大の中でオフィス移転を繰り返していたのに、この会社はずっとここに止まりながら、かろうじて潰れてもいない状態を保っている。

その速い川の流れの中で、私は最初こそ小さな石ころのように必死に流れについていってた気もするけど、いつのまにか水に浮かない大きな石になって、川底に眠り、私の上を速い流れが轟々と音を立てながら通り過ぎ去ってるようだ。

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