初恋の味は苦い
小倉あんがたっぷりと乗ったトースト。

落ち着いた照明の静かな店内。
風情あふれる昔ながらの喫茶店。

正面に座る祥慈の顔を直視できない。

「食べなよ」

そう彼は笑う。

なぜこんなに何事もなかったかのように振る舞えるんだろう。
私は合わせる顔がないのに。

昨晩の方が私にとっては黒歴史で、全然小倉あんの甘さを感じない。甘さ控えめに作られているのだろうけど。

さっきから祥慈は駅で時間潰しするのにコレがいいんじゃないか、とか、ダイマツ精機のこととかお気楽なことばかり話してるけど、私は全然頭に入ってこない。

彼は正気か?

「ねえ」

突然、祥慈が声のトーンを変える。

「気にし過ぎじゃない?」

変わらないいつもの優しい笑顔。

「さっき言ったじゃん、昨日のあれは事故だし、俺たちは何もないし、ただの友達って」

淡々と語られる言葉たちが、全く私の頭に入ってこない。

「それって普通なの?祥慈そう言って、何もないとかそういう事言うけど、実際昨日起こったわけじゃん」
「だから昨日のは事故じゃん、お互いお酒も入ってたし」
「うん」

知らないうちに皿の上からすっかりトーストが姿を消していた。

分かっている。

私は全然祥慈のことを友達と捉えられていない。

たぶん私は好きになるし、こういう風にご飯を食べるだけで舞い上がるし、デートだと思ってしまう。

< 46 / 68 >

この作品をシェア

pagetop