初恋の味は苦い
「私、無理だと思う」
「なんで」

目の前で、祥慈はまっすぐに私を見てくる。
大好きな少し可愛らしさも残る優しい目。

ああ、好き。

胸がギュッと苦しくなる。

なんで、って好きだからです。

答えに戸惑っていると、祥慈が最初に口を開いた。

「りっちゃん、こういうことがあったら、何にもなかった振りして過ごすのが一番だよ」
「私無理だよ、絶対無理じゃん、なかったことになんてならないよ」
「りっちゃんアレだね」

祥慈が言い掛けたところで食後のコーヒーが運ばれてきた。

上品にテーブルに置かれるのを、おとなしく見つめる。

女子大生と思われるウエイトレスが立ち去った後、また祥慈は続けた。

「りっちゃんウブだね」

思考回路が止まる。

うぶ。

私、祥慈から見たらただただウブなだけの女だったのか。

「なんか、天然記念物っていうか、大事にした方がいいよ、そういう感覚」
「馬鹿にしてるよね?」
「してないしてない、本当に思ってるよ、思ってるけど」

コーヒーを一口飲む。
彼は呼吸を整えるように、姿勢を正した。

「でも今のりっちゃんの相手は、絶対に俺じゃないと思うよ」

私の目の前は真っ暗になる。それでいながら耳まで真っ赤になっていくのが分かる。

分かっていたし、覚悟もしてたけど、失恋した気持ちだ。

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