初恋の味は苦い
「だからお互いに、何もなかったように過ごすのが一番なんじゃないかな」

淡々と続ける彼の言葉に、私はただうんうんと頷くだけで精一杯だった。

私がウブで、今まで経験がなくて、未だに祥慈に夢中になりそうな女だから、祥慈は未然に私という女を防いだんだ。

「ぼちぼち駅に向かいますか」

彼は伝票をサッと抜くと、カバンを引き寄せる。

私はただ、コーヒーカップの底に残ってるコーヒーを眺める。重い腰を持ち上げられない。

「りっちゃん」と祥慈が呼ぶ。
私は顔を上げて、正面で今ソファーから立ち上がりそうな祥慈の顔を見る。

「俺、今からマジで最低なこと言うよ」

私はその言葉に頷く。

「俺、確かに昨日、りっちゃんのことめちゃくちゃ好きだったって言ったし、それは本当だけど、もう10年も経ってるんだよ。別れた後大学とかで彼女もそれなりにいたし、この間まで付き合ってた彼女もいるし。正直、昨日みたいなこと俺結構あって、いちいちそれでどうする、付き合うとか付き合わないとか、そういうのもう懲りちゃって。ぶっちゃけると、りっちゃんの顔はどタイプだし、好きな顔だし、すごい可愛いと思ってるけど、転職したばっかで、この間彼女と別れたばっかで、しばらく恋愛はもういらないし」

そこで彼の言葉が止まる。3秒ほど固まったあと、静かに頭を下げた。

「だから昨日のことは本当にごめんなさい、何もなかったことにしてください」

最低だった。

「あと、りっちゃん、かなりちょろ過ぎるから気をつけて」

なぜか分からないけど、私は振られた。

私の完全完敗。
10:0で敗北。

最低な名古屋の朝。
東京へと戻る。

ああ、さようなら、名古屋。
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