初恋の味は苦い
ぼんやりとオンラインミーティング画面を開くと既に入室していた他の男性社員の顔がドアップで映った。

「おつかれさまでーす」と言いながら、じっくりとその顔を見てしまう。

こんなに男性がいながら、恋をしていない。

もちろん社内恋愛をしたいわけではない。だけど実質出会いがここしかない。

土日は一人で過ごすことに慣れてしまった。

「おつかれさまでーす、関係ないけどさ、森山さんって誕生日じゃなかった?」

画面の男、保科さんが言う。

「それ先月の話ですよ」

私は一応笑みを浮かべて返すけどマスク姿だから恐らく笑ってない。

「マジか、すみませーん」

保科さんはそう言ってミュートになった。

それから続々と他のメンバーが入ってきていつものミーティングが始まる。

8分割された、私以外、全員男のその構図を眺めながら、そこに理想的な顔面がないことを思う。

男は顔じゃない。もちろん分かってる。
だけど、この会社に入ってから一度も恋をしていない。

この会社に入ってから?間違った、私は高2の冬からずっと恋をしていなかった。
< 5 / 68 >

この作品をシェア

pagetop