初恋の味は苦い
久しぶりの出社は何とも言えない緊張感に包まれていた。

名古屋出張後から見事に発熱した私は、月曜日に検査結果で陽性と判明、祥慈と一緒に仲良く10日ほど休むことになったわけである。

まるっと一週間休む形となり、なぜか嫌なほど来ていたオフィス入り口で深呼吸するハメになった。

よし、入ろう。

私はカードキーをセンサーにタッチし、社内に入るとあまりにも懐かしく感じてしまう面々に少し圧倒された。

優希が最初に私のところに駆け寄ってきた。

「大丈夫!?もう何ともないの?」
「大丈夫だよ、ほんとすみません、急にこんな形で休むことになって」

私はペコペコしながら通路を進んでいくと、パソコンをカタカタやってる祥慈とバッチリ目が合った。

向こうも少し目を丸くしてたが、何事もないようにサクッと立ち上がって

「おはようございます、お互い大変でしたね」

なんて微笑んできた。

私も心の中で苦笑しながら

「もう多田さんはすっかり良くなったんですか」

なんて返すと、

「はい、熱の方は2日くらいで引きましたね、喉の痛みが酷くて」

とソツなく返してきた。

そんな風に会話する私たちを外から冷やかすように営業部の社員がニヤニヤ見ているのが伝わってきた。

私はクルリと振り向いて、また笑顔を作る。

「すみません、1週間もお休みいただいて、お陰様でもうすっかり元気になったので」

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