初恋の味は苦い
決まりきった文句をサラサラ言うと、保科さんがニヤニヤしながら私の前に立つ。

「名古屋でアツい夜でも過ごしたんじゃないのー?」

もちろん冗談で言ってることは分かる。

「いやー、そんなこと」と私が否定しかけたところで祥慈が口を挟む。

「コーチン!コーチン食べた時っすよね、絶対」
「そう、絶対そう」
「俺たち名古屋に浮かれちゃってコーチン料理食べに行ったんすよ、鳥刺し追加で当たってたら悲惨でしたね」
「ねえ」

「あれは激アツな夜でした」と祥慈がなんとなく締めくくる。

私もオーバーにうんうん頷くと、保科さんがニヤニヤしながら口を開いた。

「お前ら、コーチン食べに行ったの?」

どうやら話題が適当に流れたようだ。

「美味しかったっすよ、ね?」
「すっごいプリップリだったね」
「かなり呑みましたね」
「ねー、お互い相当酔ってましたよね!」

その後のホテルのことを感じさせない程度にテンションを高めると、話題性には乏しかったらしく、皆さん「まあ、元気になって良かったよ」と言いながら帰っていった。

少しの間、祥慈と目が合った後、先に祥慈が笑顔を作って業務に戻る。

気まずい。

優希が隣を並んで歩いてくれる。

「いいなー、私も多田さんとご飯食べに行きたい」

なんの嫌味もなく優希が隣でこぼすのが耳に入る。

私はただハハッと笑ってそれを流した。
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